Keita Matsumoto, Assistant Professor, Faculty of Humanities
研究内容・成果
ユーラシア草原地帯では、前1千年初頭の騎馬遊牧開始に伴って、初期遊牧民文化(スキタイ文化・サカ文化など)が形成され、周辺地域も含めた広域交流が盛んになった。当時の青銅器に関する交流については、考古学的分析から北から南への影響(南シベリアや中央アジア→中国北方)を指摘する意見と、金属成分から逆方向の影響を考える研究が存在する。そこで、本プログラムでは、前1千年紀のユーラシア草原地帯における、採鉱・合金・デザイン・鋳造を含む体系としての青銅器製作技術の起源・拡散過程を明らかにし、影響関係の方向の決定と具体像を示すことを目的とした。本研究では特に①化学分析と考古学的情報との融合化、②方法・統計的により確からしい傾向の把握に重点を置いた。
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採択者による考古学的研究によって、前7~前5世紀頃の中国北方(長城地帯)では、中央アジアやシベリアと共通する新たな、鋳型形成に関わる製作技術が出現することが知られた(松本2024)。また採択者らは、島根県立古代出雲歴史博物館などに所蔵される当該期の青銅器に関して化学分析を行った。この分析は非破壊分析で、特定元素の有無(定性)が信頼性の高いデータとして得られ、それを基に、幾つかの合金グループを抽出した。それらを、上記の古い鋳型製作技術による青銅器の型式群と新たな技術による型式群の間で比較した。結果、新たな技術による、前7世紀以降の型式群では、ニッケルを含む合金グループが新たに出現することを確認した。また、参考値ではあるものの、形態的に中央アジアやシベリアの青銅器に近い例が、ニッケル成分を多く含むことも確認できた(松本ほか2023)。これらのことは、前7~前5世紀頃の中国北方が、鋳型のみならず、採鉱・合金を含めた一連の青銅器生産技術において、外的影響を受けていた可能性を示している。同時期の中国華北平原が春秋戦国時代という、青銅器を含めた文化様式全体の変革期にあたることを考えても、本研究の結果は興味深いものである。
今後の展望
本研究で判明した変化に関して、その起源地である可能性の高い中央アジアとその周辺(カザフスタン、西・南シベリア、モンゴル)における青銅器の観察と金属成分分析が必須の課題である。また、同時期の華北平原との関連についても調べる必要がある。採択者らは本プログラム終了後も諸機関と連携し、こうした調査研究を継続している。
融合分野
ユーラシア草原考古学、地球科学(台湾中央研究院・飯塚義之)、東アジア考古学(山口大学・鈴木舞)
研究キーワード
青銅器、製作技術、東西交流史、金属化学分析、スキタイ・サカ文化、北方系青銅器